連載第8回 「将来の大病を防ぐ薬の治療」

風邪や肺炎になった後、薬をずっとのみ続けるようなことはありません。風邪や肺炎が治ってしまえば、もうそれ以上、内服を続ける必要がないからです。しかし、糖尿病や高血圧・不整脈などの薬は、のみ続けなければなりません。一時的な病気に対する治療と長く続く病気の治療の違いです。しかし、一度手を出すと止められなくなるからといって薬をのみたくないという方がいらっしゃいます。

頭やおなかが痛い時には何か薬をのみたくなるのは自然なのですが、どこも痛くないのに将来に備えて薬をのみ続けるのは確かに難しいと思います。高血圧や糖尿病の自覚症状の多くは軽いものです。血圧を下げる降圧剤をのんで、血圧も安定したら何の自覚症状もありません。「あの医者は、何ともないのにいつまでも薬をのませ続ける」とか、「あの医者の薬を何年のんでも病気は治らない」といった医者に対する不満を耳にすることも少なくありません。

私がかつて福岡で診ていた患者さんもそんな一人でした。まだ35歳を過ぎたばかりでしたが、拡張型心筋症という病気のためにたちの悪い不整脈が出ていました。こうした病気の方には、最近ではアミオダロンという不整脈を抑える薬を使うのが一般的です。

アミオダロンをのんでいる人は、のんでいない人より長く生きている人が多いことが研究で証明されているからです。一方、この薬には命に関わる副作用が一部の人に現れることも知られています。私は副作用が出ないか注意深く診た上で、この人には使えると判断してアミオダロンを使い続けました。

不整脈も出なくなり調子の良くなったその患者さんは、いつまでもこの薬をのみ続けなくてはならないのだろうかと疑問を持ったのです。知人から四国に不整脈治療で有名な先生がいると教えられ、私には内緒で四国までわざわざ行かれました。その四国の先生は、このような副作用の強い薬をのんでいると死んでしまうぞと言って漢方薬を処方され、アミオダロンを中止するように言われたそうです。その患者さんが不整脈で突然死されたのはその後まもなくでした。

今でもこの患者さんを死なせたのは、その四国の医者だと思っていますが、私に反省がないわけではありません。なぜもっと、この薬の必要性や続けることの意味を話さなかったのだろうと悔やまれてなりません。死ななくて良い方が、患者さんの無知、私の説明不足、四国の医者のでたらめで死んでしまったのです。

血圧の高い方に私たちが薬を処方し、長くのんでもらうのは将来の脳出血や心筋梗塞を予防するためです。血圧を下げるためだけに内服を続けてもらっているのではありません。不整脈に対する治療もまったく同じことです。一時の痛みや熱を解決する薬と、将来の大病や突然死を防ぐ治療の違いをよく理解して頂いて、防げる病気で命を失うことのないよう、十分な説明を心がけなければと思います。

 


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