載第6回 「胸がおかしいと思ったらすぐに救急車を」
 前回まで、狭心症の段階で治療することが大切だという話をしてきました。今回は、さらに進んだ心筋梗塞の話です。心筋梗塞の方の約六割の方が狭心症の時期を経ていたことは前に述べました。残り四割の方はいきなり強い胸の痛みを自覚したわけです。心筋梗塞になった時に必要な治療を受けないで放置していると半数近くの方は命を失ってしまいます。それに対して心臓が動いているうちに病院にたどり着いて適切な治療を受けた場合の死亡率は五パーセント程度です。


 かつては脳卒中なども良い治療法がなく、自宅で安静にして救急車にも乗せない方が良いと言われた時代がありました。しかし、心筋梗塞では病院にすぐに来ていただけると放っておいた場合と比べての死亡率が十分の一程度に低くなるわけですから、家庭で様子を見るというのがいかに危険かを理解していただけると思います。


 心筋梗塞は、夜半や朝方に起こりやすい病気です。皆さんは夜中に胸が苦しくなったときにどうされるでしょうか。私たちの経験では、すぐに救急車を呼んで病院にこられる方もいらっしゃるのですが、朝まで様子を見て病院に行こうと思われる方が多いのです。心筋梗塞は胸が苦しくなってからの時間が早いほど亡くなる可能性が高い病気です。我慢していたために、病院にたどり着いた時には心臓が止まっていたという方があとをたちません。突然の心臓発作で命を失わないコツは、我慢しないで夜中でもすぐに救急車で病院に行くことです。


 とは言っても、いざ救急車を呼ぶとなると「夜中に呼んだら近所に迷惑」だとか「このくらいのことで救急車を呼んでも良いのか」とかいろいろと考えてしまうものです。心臓が止まってから来る人の大半がこのようなことを考えて救急車を呼んでいなかったのです。
病院にうまくたどり着いてくれるとあとは、私達、医者の仕事です。心臓を養う冠動脈がつまってなるのが心筋梗塞ですから、私たちが行う治療はつまった冠動脈をとおすことです。つまった冠動脈を通す方法には二種類の方法があります。血栓をとかす薬を点滴する方法と風船でつまった冠動脈を直接とおしてしまう方法の二つです。一方は点滴するだけの治療、もう一方は心臓までカテーテルを入れて行う治療ですからできれば点滴で治療してもらいたいと思うのが人情です。


 どちらの治療法が優れているのか、ということはどちらの治療法を選ぶと死亡率が低いのかという事ですが、これを調べた米国の研究があります。この研究の結果、風船で治療した方が明らかに死亡率が低いことがわかりました。怖くても心臓までカテーテルを入れたほうが助かる可能性が高いことがわかったのです。風船の治療は一般的には心臓外科のある病院で行ったほうが良いと言われています。大隅では平成十二年の四月になって初めて大隅鹿屋病院で心臓外科の手術が可能となりました。風船治療も十分できなかった大隅でも心臓外科手術も可能となり、安心して風船治療ができる環境が整ってきたのです。大急ぎで病院に行ったけれどもそこでは治療ができず鹿児島まで連れて行かれたというのは過去の話になろうとしています。
 

 


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