載第3回 「科学的な根拠に基づいた心臓病の治療」

今回は、狭心症の治療の話です。

治療法には大きく分けて3通り、あります。薬による治療と、風船による治療、胸を切開するバイパス手術です。風船による治療では、心臓までカテーテルと呼ばれる管を心臓まで入れなければなりません。バイパス手術では、全身麻酔で胸を切り開かなくてはなりません。そんなことを考えると薬で治療して欲しいと思うのは無理のないことです。

狭心症の中には薬で治療して十分な効果をあげる事ができるものも少なくありません。冷たい風にあたったり、朝早くに運動したりした時に、普段はきれいな冠動脈がけいれんして細くなり発作を起こすことがあります。こうした冠動脈がけいれんすることによって起きる狭心症では風船も手術も必要ありません。薬だけ内服していれば大きなことにはならないのです。

一方、3本ある冠動脈がすべて狭くなっているような方が薬だけで治療されていると、手術を受けられた方と比べて明らかに死亡率が高いことが知られています。同じ狭心症の方でも冠動脈の状態や、心臓の弱りかた、合併する他の臓器の病気でも治療法は異なるのです。

早期胃がんが見つかったと思ってください。早期胃がんを切り取ってしまえば、ほぼ確実に命に関わることはありません。良い結果が出ることが分かっていて手術は怖いから薬で治して欲しいと思うでしょうか。しかし狭心症の場合、薬で治して欲しいと望まれる方が少なくありません。薬を内服すると確かに胸苦しいのは楽になりますが、冠動脈が3本とも狭いような方であれば長期の生存は期待できません。治療に必要なことは、病気の状態を知ることです。狭心症だからこの薬をのみなさいといった治療は非常に危険です。

狭心症の状態を知る方法は、実際に冠動脈がどうなっているのかを見る冠動脈造影という検査です。心臓までやはりカテーテルを入れて行う検査です。冠動脈のけいれんであれば薬で治療、冠動脈の1本だけがせまければ薬か風船、2本以上狭ければ風船かバイパス手術と大まかに考えていただければ間違いありません。

大隅半島で、狭心症かどうかを調べるための冠動脈造影検査を受けられる病院は、県立鹿屋医療センター、大隅鹿屋病院、鹿屋ハートセンターの3病院だけです。それでもかつては検査を受けるだけでも鹿児島市 内まで行かなくてはならなかったのですが、だんだんと大隅にいても世界の標準の検査を受けられるようになり、その結果にもとづいた治療の選択ができるようになってきたのです。

それぞれの治療法には、短所と長所があります。病状にあわせて治療法を選ぶことにより最も良い結果を出せます。そうした治療の選択方法は科学的な根拠にもとづいた医学と呼ばれ、世界中の医者がカンや経験だけに頼らずに、この科学的な根拠にもとづいた医療をめざしているのです。

 


鹿屋ハートセンター  郵便番号893-0013 鹿児島県鹿屋市札元2丁目3746-8 電話 0994-41-8100