連載第11回 「失神発作とペースメーカー」

 

前回、心臓病が原因で脳梗塞になることがあるという話をしました。心臓は、全身に血液を送る中枢ですから、心臓の病気は様々な全身の不調を引き起こします。脈が極端に遅くなると脳に流れる血液が不足し、目の前が暗くなったり、失神発作を起こしたりすることがあります。

失神発作を起こしても、俗に「脳貧血」だろうといってあまり心配しない方がいらっしゃいます。過去に起きた経験を思い出してください。学生時代に朝礼などで倒れる子供がいましたよね。しかし、こうした場合には、頭をぶつけてけがをしたり、尿を漏らしてしまったりすることはまずなかったはずです。

こうしたけがをしたり、失禁したりする失神発作は危険な失神です。「脳貧血」と片づけて放っておくと突然死につながることもあるのです。脳は血液不足になってからわずか四分で駄目になってしまうといわれています。心臓が原因で失神発作を起こす場合には、数秒から数十秒間、脳に血液が十分流れていないわけです。これがもう少し長引くと脳が駄目になって命を失いかねません。

こうした、脈が遅くなることが原因で失神発作を起こす場合の治療は、ペースメーカーという機械を皮膚の下に植え込む手術です。手術といっても、全身麻酔も必要ありませんし、皮膚の切開も四針程度ぬうだけのものです。上手な先生が順調に手術した場合には三十分から一時間程度で手術は終わります。機械も昔は懐炉よりも大きなもので手術後の不快感がありましたが、最近では二十五グラム程度のものも開発され使用されています。

これほど簡単な手術で突然死が防げるわけですから、ペースメーカーの必要な方がいらっしゃれば、手術をお勧めする事をためらうことはまれです。しかし、このことをご存知ない方は、機械を入れる手術をしてまで長生きしたくないと、手術を受けたがらない方がいらっしゃるのです。

機械に依存して生きていくことに抵抗感があるのは当然です。ペースメーカーを入れられた方のほとんどが最初は自分の力だけでは生きていけないという風に考えて挫折感を感じられるようです。しかし、眼内レンズや人工関節なども体の中に植え込む人工臓器です。目が見えなくなるのは困るが、心臓が止まるのは仕方ないと思わないで欲しいのです。

現在、日本国内で年間に一万人以上の方が新たにペースメーカー植え込みの手術を受けておられるのです。既にペースメーカーが入っていて生活している方は何万人もいらっしゃるのです。機械が小さくなったため、手術後にゴルフや水泳を楽しんでいる方も少なくありません。

ペースメーカー植え込み手術は、循環器科のある病院ならほとんどの所で可能です。鹿児島まで出かけなくても大隅で手術を受けることができるのです。

ペースメーカーが入っていると死んでも心臓が止まらないと心配されたり、電子レンジや携帯電話が使えなくなるのではないかと心配されたりする方もいらっしゃいますが、わずかな注意で問題は起こりません。ただ、ペースメーカーを入れている方が大勢いらっしゃるのだということも、一般の健康な方は忘れずにいて欲しいものだと思います。

 


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