連載第10回 「心臓病からくる脳梗塞」

小渕前首相が、脳梗塞で倒れて亡くなられました。医師団からの一応の説明はありましたが詳細は不明です。もともと心臓病があり、その影響で脳梗塞になったのではないかと言われています。脳と心臓との間には、直接の関係がないように思われるかもしれませんが、心臓病が原因で脳梗塞になることは珍しくありません。

脳梗塞を引き起こす心臓病の代表は、心房細動と呼ばれる不整脈です。多くの不整脈は、普段は規則正しい脈が、一瞬、脈が飛ぶというふうに出てきます。しかし、心房細動では、脈の規則性はまったくなく、いつみても脈の打ち方が不規則なのです。心房細動は、心臓弁膜症が原因となって出てくることもありますが、まったく心臓病がないのにこの不整脈だけがでるということも多いのです。規則正しかった脈が、心房細動になってすぐの頃は、心臓がおどるような感じがします。しかし、放っておくといつしか胸もどきどきしなくなってきます。また、この不整脈は、米国の研究では、七十歳以上の方のおよそ五%に見られると言われています。

多くの人に見られる、ありふれた不整脈であること、慣れてくると動悸も感じないで別に苦にならないことから、かつては無害な不整脈であると医師も考えていましたし、放置している患者さんも少なくありません。

しかし、この不整脈を放っておくと脳梗塞になりやすいことが分かってきました。心房細動の方を無治療で放っておくと、一年間で四%以上の方が脳梗塞になることが分かってきたのです。百人の心房細動の方を放っておくと最初の一年で四人程度、十年で四十人程度の方が脳梗塞になってしまうのです。

心房細動から脳梗塞になると重症になることも知られています。小渕前首相のように命を失うほどの脳梗塞になったり、寝たきりになってしまうほどの脳梗塞になったりと動脈硬化が引き起こす脳梗塞よりも重症になりやすいのです。

心房細動から脳梗塞にならないために最も良い方法は、きれいな脈を維持することです。起きてすぐの心房細動の多くは不整脈を抑える薬できれいな脈に戻すことが可能です。しかし、この時期を我慢してすましてしまうと、心房細動は慢性となり、薬できれいな脈に戻すことは難しくなってきます。こうなると脈の乱れは、そのままで諦め、脳梗塞にならないようにワーファリンという血液の凝固を抑える薬を使うことになります。この薬の効果は、納豆やブロッコリーを食べると弱くなり、脳梗塞を予防する力がなくなってしまいます。また、抗生物質などを使うと効果が強くなりすぎて血が止まらなくなったりすることがあります。こうしたわずらわしさがあるために、何ともないのに薬をのむ気はしないという方が大勢、いらっしゃいます。

総理大臣でさえ回復することができなかった脳梗塞ですから、なってからでは間にあいません。今回の事が教訓となり、元気な方が急に亡くなったり、寝たきりになったりするような悲劇を繰り返さないために皆様によくこの病気を知っていただかなければと思っています。

 

 


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